他院で拒否された聴覚障害者の手術
~丁寧なカウンセリングと密なコミュニケーションで満足の仕上がりに~
手術までの経過
予約なしでクリニックに現れた一人の女性。
カウンセラーが声を掛けますが、彼女は黙ったままです。
通常であれば初診のお客様は電話やWebサイト、LINEなどでご予約後来院されます。
カウンセラーが「ご予約はいただいていますか?」と尋ねると彼女はジェスチャーで何かを訴えています。
紙とペンを用意すると「私は耳が聞こえませんが大丈夫ですか?」と書いてくださいました。
聴覚障害のある方とのコミュニケーションが初めてだったカウンセラーは、一瞬戸惑いながらも個室へ案内しました。
抱えるコンプレックス
彼女の気持ちを必死にくみ取ろうとするカウンセラーの熱意もあって、紙はどんどん文字で埋まっていきました。
「今までコンプレックスから抜け出せずに苦しんできました。鼻とリフトアップの手術をして自信を持ちたいという強い希望がありましたが、耳が聞こえないという理由で多くのクリニックに断られてしまいました。」
過去の辛かった出来事や思い悩んでいた心の内を泣きながら筆談で教えてくれたのです。
他院で断られた理由としては
・お互いの医師がうまく伝わらないから ・手術中や治療中に痛みを訴える手段がないから ・治療そのものが危険だから |
といったことのようでした。
彼女の言葉一つ一つがカウンセラーにとっては重く響き、希望をかなえてあげたい、できることは全てしてあげたいという気持ちで知らず知らずのうちに涙が流れていました。
院内会議
冷静に考えれば、もし何かあった場合にきちんと対応できるのかという不安も生じます。
院内で緊急会議が始まりました。
筆談やジェスチャーでカウンセリングはできるのか、リスクの説明は適切にできるのか、麻酔は、手術は…
カウンセラー、医師、看護師で慎重に話し合った結果、まずはカウンセリングを行うことになりました。
カウンセリングを1週間後に行うことを伝えると、彼女の表情はパッと明るくなりました。
カウンセリング当日
カウンセラーはメモ帳とペンを用意して彼女を待っていました。
来院した彼女は前回同様、緊張した面持ちです。
「カウンセリングまでの日々がとても不安でした。でもみなさんの優しい笑顔を見たら安心しました。」
と涙をポロポロと流し始めました。
いよいよここからが本格的なカウンセリングです。
カウンセラーはホワイトボードを手に、彼女と医師である私はメモ帳を手に、静かな個室にペンを走らせる音だけが響きます。
コンプレックスだったこと
彼女がコンプレックスを抱いていたのは、団子鼻で鼻先が大きいことでした。
鼻先を小さくする「鼻尖形成術」、広がっている小鼻を縮める「鼻翼縮小術」が必要であること、術式の組み合わせや手術方法をイラストと文字で丁寧に説明しました。
細かい部分や専門用語はカウンセラーがホワイトボードでかみ砕いて説明してくれたので助かりました。
こうして始まった筆談によるカウンセリングは、いつの間にか1時間以上も経過していました。
「手術を受けたいです!」
という彼女の笑顔にカウンセラーは感動し、必ず成功させなければと強く決意したそうです。
注意事項の説明
そのためにも不安や疑問点は少しでも減らすべく、手術に関する注意事項やダウンタイム、リスクの説明を繰り返し行いました。
気付けば3時間が経過。
長く、熱いカウンセリングのすべてが終了しました。
ここからはスタッフ一同、手術に向けて綿密な準備のスタートです。
念入りな準備
看護師は手術の流れを画用紙に書き出し、状況を伝えるフリップを作成しました。
さらにどういった状況が起こり得るか、考えられるパターンをすべて書き出し全てシミュレーションを行います。
「麻酔をします」「動かないでください」「待ってください」
など、シチュエーションごとに必要なフリップも用意しました。
また、彼女が「痛い」「気分が悪い」「大丈夫」などの主張ができるようにジェスチャーによる合図も決めておきました。
手術当日
このようにしてさまざまな準備を重ね、いよいよ手術当日を迎えました。
彼女は緊張しつつもどこか嬉しそうです。
「安心して受けてきてください。手術が終わるまでお待ちしています。」
カウンセラーが筆談でそう伝えると、彼女は笑顔で手を振ってくれました。
2人の信頼関係が固く結ばれていることに気づき、カウンセラーの人柄や熱意も手術を成功させる大きな要因になるのだと改めて気づかされました。
手術後
綿密な準備を行ったからこそ、手術は滞りなく終了しました。
病院スタッフ一同が安堵と充実感を得ることができたのです。
術後の診察で再度ご来院された彼女は何度も何度も
「ありがとう、ありがとう、ありがとう!」
とメモに書き、明るい笑顔で感謝の気持ちを伝えてくれました。
担当したカウンセラーと手を取り合って喜ぶ姿に私も感動したことを覚えています。
まとめ
長年抱えたコンプレックスや過去の辛い出来事など、誰にも言えない心の悩みは誰にでもあります。
私たちの仕事はそういった悩みやコンプレックスを解消し、人を笑顔にすることです。
今回の症例では美容医療を通して人を笑顔にすることができるのだと改めて実感することができました。
お客様の思い、カウンセラーの熱意、医師の技術…
全てが重なることで、今回の手術成功へとつながったのです。